客先常駐・SESを辞めたい前に。偽装請負の見分け方と厚労省の基準で確認する方法

未経験でSES企業に入社して1年半、ずっと同じ現場に常駐しています。客先の社員から直接、毎日の作業指示や勤怠の確認を受けているのですが、これって普通のことなんでしょうか。「辞めたい」とは思うものの、何が問題なのか自分でもうまく説明できません。
その違和感は、契約上の会社と、実際に指示を出している会社がズレているかどうか、という視点で整理できます。感情的な「きつい・やめとけ」ではなく、法律の物差しで一度確認してみましょう。
「客先常駐がきつい」「SESを辞めたい」と検索する20代エンジニアは少なくありません。ただ、その多くは「辞めたい」という感情はあっても、それが単なる相性の問題なのか、それとも契約と実態がズレた「偽装請負」に近い状態なのかを判断できずにいます。この記事では、客先常駐・SESという働き方の仕組みと、偽装請負を見分けるための厚生労働省の基準を整理します。
この記事は法律の一般的な情報を含みますが、個別の契約・就業状況の判断は、必ず後述の公的窓口にご相談ください。「客先常駐がきつい」と感じる、よくある理由
SES(システムエンジニアリングサービス)企業に入社すると、自社ではなく客先のオフィスに常駐して働く形態が一般的です。よく挙げられる不満には、次のようなものがあります。
- 同じ現場に長期間出続け、自社の同僚とほとんど顔を合わせない
- 客先の社員から日々の作業指示を受け、自社の上司の関与がほとんどない
- 評価やキャリアパスが見えにくい
- 契約更新のたびに、次の現場が決まるまで不安がある
これら自体は、SESという契約形態そのものの特性であり、直ちに違法というわけではありません。問題になり得るのは、契約の形式と、実際の働き方が食い違っている場合です。
編集部の判断: ここで挙げた不満は、それ単体では「辞める理由」としての法的な後ろ盾になりません。次の章で説明する基準と照らし合わせてから、辞める・異動する・様子を見るを判断することをおすすめします。
契約は「準委任・請負」なのに、なぜ問題になることがあるのか
派遣と請負・準委任の違いは「指揮命令権」にある
SESの契約は、多くの場合「準委任契約」または「請負契約」という形を取ります。これらと労働者派遣の決定的な違いは、誰が労働者に対して指揮命令を行うかという点にあります。
- 労働者派遣:派遣先の会社が、派遣労働者に直接指揮命令を行うことが法律上認められている契約形態。
- 請負・準委任:発注元(客先)は、成果物や業務の完成について発注するだけで、作業する労働者への日々の指揮命令は、あくまで労働者が所属する会社(SES企業)が行うのが原則。
つまり、契約書が「準委任契約」であるにもかかわらず、実態として客先の社員が労働者に直接、日々の作業指示や勤怠管理を行っている場合、契約の形式と実態が食い違っている可能性があります。これが「偽装請負」と呼ばれる状態です。
厚生労働省の判断基準(37号告示)とは
この判断基準は、厚生労働省が示している告示にもとづいています。
労働者派遣、請負のいずれに該当するかは、契約形式ではなく、「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」に基づき、実態に即して判断されます。 出典:厚生労働省「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(37号告示)関係疑義応答集」
同ページでは、疑義応答集に載っている事例と異なるケースについては、各都道府県労働局が実態に即して個別に判断するとも案内されています。
つまり、契約書の名称が「準委任」「請負」であっても、実態として指揮命令が客先から行われていれば、労働者派遣に該当すると判断される可能性がある、というのがこの基準の考え方です。労働者派遣に該当する実態がありながら、労働者派遣の手続き(派遣元・派遣先の許可や契約)を取らずに行われている状態が、いわゆる偽装請負と呼ばれています。
編集部の判断: 契約書の文言がどうであれ、まず確認すべきは「日々の作業指示を誰から受けているか」の一点です。それ以外の違和感(評価が見えにくい、雰囲気が悪いなど)は、この判断とは切り離して考えることをおすすめします。
セルフチェック:あなたの働き方は偽装請負の兆候がないか
確認してみたいポイント
- 客先の社員から、日々の業務内容・進め方について直接指示を受けている
- 出退勤の時刻や休暇の取得について、客先が管理・承認を行っている
- 契約上は準委任・請負なのに、客先の朝会やチームミーティングに、客先社員の指揮下で参加することが常態化している
- 自社(SES企業)の上司が、現場での業務内容をほとんど把握していない
- 契約書上の業務内容と、実際にやらされている業務が大きく異なっている
編集部の判断:5項目のうち、特に重視すべきは上の2つ
37号告示が主眼を置いているのは「指揮命令を誰が行っているか」という一点です。編集部は次のように優先順位をつけて確認することをおすすめします。
- 客先から直接、日々の業務指示を受けている(★最重要)
- 客先が出退勤の管理・承認を行っている(★最重要)
- 朝会への参加や評価の不透明さは、上の2つを補強する状況証拠として見る程度で十分です。
この2つに強く当てはまり、かつ自社の上司が現場の実態をほとんど把握していない場合、確認を急いだほうがよいと編集部は考えます。
これらに複数当てはまるからといって、直ちに違法と断定できるわけではありません。実態は現場ごとに異なり、最終的な判断には専門的な確認が必要です。あくまで「一度確認してみる価値がある兆候」として捉えてください。
より詳しく確認したい場合は、厚生労働省が作成し各地の労働局が配布している労働者派遣・請負を適正に行うためのガイド(PDF)に、請負と労働者派遣を適正に行うための実務上の留意点がまとまっています。
チェックの数をどう読むか
この対応表について
以下は当サイト編集部が実務上の目安として整理したものであり、法的な基準や公式の判定方法ではありません。実際の該当可否は専門家の確認が必要です。
| 当てはまった数 | 目安となる動き方 |
|---|---|
| 0〜1個 | しばらく様子を見てよい範囲と考えられます |
| 2〜3個 | 自社の上司・人事にまず相談する価値があります |
| 4個以上、特に指揮命令に関する2項目の両方 | 労働基準監督署・労働局への相談を早めに検討することをおすすめします |
該当しそうな場合、何をすべきか
まずは自社の上司・人事に、現場での指揮命令の実態を伝えてみる。 会社側が把握していないまま是正されるケースもあります。
社内で解決しない、あるいは相談しづらい場合は、労働基準監督署や都道府県労働局に相談する。 労働者派遣・請負の適正化を所管する窓口があります。
判断に迷う場合は、弁護士や社会保険労務士など専門家に相談する。 契約書と実態の両方を見てもらうことで、より正確な判断材料が得られます。
相談先に迷ったら
労働条件や契約実態についての相談は、お近くの労働基準監督署、都道府県労働局の需給調整事業部門(労働者派遣・請負の担当窓口)、厚生労働省の総合労働相談コーナーで受け付けています。一人で抱え込まず、状況を整理して相談することをおすすめします。
ケースで見る:状況によって次の一手は変わる
違和感の正体が確認できたら、そのまま同じ環境に留まるか、別の道を探すかを考えるタイミングです。同じ「偽装請負の兆候がある」という状態でも、状況によって次に検討したい一手は変わると編集部は考えます。一般的な傾向として、次の3パターンに整理できます。
パターンA:自社の上司が現場の実態を把握していない
社内での是正を試みる余地が大きいパターンです。まずは自社への報告・相談から始め、状況が変わるかを見てから、同じSES企業内での異動希望を出すのが妥当と編集部は考えます。
パターンB:自社に伝えても改善が見込めない・繰り返し放置されている
社内での解決は期待しにくいため、労働基準監督署や労働局への相談を検討しつつ、並行して別のSES企業や受託開発を中心とする企業への転職を選択肢に入れる余地があります。会社によって、現場管理の体制や指揮命令の徹底度合いは大きく異なります。
パターンC:現場や契約そのものへの不信感が強い
是正を待つより、客先常駐ではない自社内でのエンジニア職(社内SE・事業会社の開発職)など、常駐という働き方自体から離れる選択を優先して検討する道もあります。
注記: これは編集部が公開情報をもとに整理した状況の分類であり、個人の体験談ではありません。
いずれの道を選ぶにしても、転職活動そのものの進め方が分からなければ動き出せません。応募から内定までの一般的な流れは、こちらの記事で整理しています。

まとめ
「客先常駐がきつい」という感情だけで転職を決めるのではなく、まずは契約と実態がズレていないかを、厚生労働省の基準というひとつの物差しで確認してみる——これが、後悔のない判断につながると私は考えます。偽装請負に該当するかどうかの最終的な判断は専門家の確認が必要ですが、セルフチェックの視点を持っておくだけでも、今の状況を客観的に捉えやすくなるはずです。
転職を検討する場合、エンジニア向けの転職エージェントを比較した記事もあわせてご覧ください。

※本記事は法律の一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の契約・就業状況の適法性を判断するものではありません。個別の労務トラブルについては、労働基準監督署や弁護士・社会保険労務士など専門窓口にご相談ください。制度・法令の最新の運用は、厚生労働省などの公的情報で必ずご確認ください。 ※本記事はアフィリエイトリンクを含みません。